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牛の散歩―日本人ボクサーパタヤに降り立つ

投稿日:2005年5月26日 更新日:

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僕らと「牛(ギュウ)」との出会いは、一通のメールからだった。

「私は、現在26歳でプロライセンスを取得しています。しかし、所属ジムで試合を組んでもらうことができなくなり海外でやりたいと希望するようになりました。タイでのボクシング生活で、自分のボクサー人生を完全燃焼したいと思ってます。どうか力になっていただけるようお願いします」

それは、ある年の年末のことだった。この簡単ながらも、何か決意を秘めたような重い言葉に、僕らは彼と会うことを決めた。

2005年1月5日深夜。初めての海外、そして、もちろん初めてのタイ。空港からの送迎タクシーでパタヤに降り立った一人のプロボクサー。彼の第一印象は、26歳という歳の割には弱々しく、何か頼りなげでもあった。「出来るだけ生活費を切り詰めてボクシングに励みたい」。持ってきた貯金でボクシングに燃焼する。これが彼の希望であった。

街から少し離れた場所にアパートを借りる。郊外へのジムへは自転車通い。毎日3度の飯は全てタイ食。タイはおろかパタヤの街がどんなものかも知らない。僕らは親切心からか、いたずら心からか、当初はもちろん、パタヤの夜というものを彼に教えたりはしなかった。そして、何より彼が早くタイ語を覚えて、地元の人々と接して欲しいと望んだため、彼に必要以上の助けを与えなかった。

「頭部へのケガが災いし、日本での試合はもう許されない」という現実。彼は過去に多くの世界王者を輩出しているタイ屈指のジム。スィーヨットンジムで毎日、汗を流した。ジムのトレーナー、関係者たちも、彼の熱意と闘志に心打たれ、「牛(ギュウ)」は観光客が集まるバービア内のスタジアムで2度の試合を経験した。どちらも判定勝ちながら圧勝だった。

三ヶ月もすると、彼は驚くほどの量のタイ語を身につけていた。身体も一回り大きくなり、その風貌も一段と大人になったように思える。時には皆で夜の歓楽街に足を運ぶことも多くなった。そして、2005年5月12日。「牛(ギュウ)」はタイでの最終試合を行った。地元タイ人が足を運ぶ正式なスタジアムでの興行試合だ。一度のノックダウンを奪う闘志溢れるファイトで判定勝利。

僕はそのとき半年前の彼とは違う彼を見た。それは決して試合に興奮していたからではなく、彼のタイでの日々、ボクシングへの思いに共感していたからでもない。そこにあるのは、「熟した大人の顔」であった。勝利の雄叫びをあげる彼の顔には、何か自信を得た者にしかない輝きのようなものが垣間見えた。きっと、それがタイ。いや、パタヤの魅力なのであろう。

たった半年間という短い時間で彼を大きくしたものとは。それは、確かに初めての海外生活を経験したということも否めない。だが、それは毎日を楽しく、そして、本能のままに生きるタイ人と、彼がありのままに接した結果なのではと思う。もちろん、彼にはタイ人を引きつける魅力のようなものもあったであろう。

最終試合を終えた彼は、休息にとイサーン(タイ東北地方)へ足を伸ばした。すでに友達となっていた元世界チャンピォンのヨーサナン選手との男二人での小旅行だった。一週間ほどの旅を終え、彼に会うと、彼はこう口にした。「バンコクは都会でいい。イサーンもそれはそれでいいところばかりだった。でも、やっぱりパタヤは落ち着きますよね」。

そう、それがパタヤの魅力なのだと思った。夜の歓楽街としての顔を多分に持ち、ドロドロした汚いイメージが持たれているのも確か。大人のディズニーランドなんて言われたりもするし、狂った街だなんて言われたりもする。だが、パタヤには、何か人を包み込む暖かさのようなものがある。歳の割りに、幼く見えた彼を半年間で大人にしたものとは、パタヤそのものなのではなかったか・・と思う。

そして、半年間で大人になったプロボクサーは、日本へと帰国した。彼の第二の人生は、これから日本で始まる。パタヤでの生活が、彼の今後の活性剤になればと思う。

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