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夜の蝶たち(二匹のゴーゴーレディー)

投稿日:2012年2月13日 更新日:

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ハイシーズンの勢いはいまだ衰えぬまま、多くの欧米人に埋め尽くされた街パタヤシティー。過激な新年1月が過ぎ去り、幾分落ち着きを見せ始める2月に入ると、日本人観光客の姿も徐々に増えてくるようになる。そして、タイ好きの知人も今年一発目の初パタヤ!というわけで、歓楽街ウォーキングストリートへ繰り出してきた。毎年数回パタヤを訪れる彼らが足を伸ばす夜の店は、もちろんゴーゴーバーが多い。そして、前回の思い出とオキニなレディーを求め、夜な夜な飲んだくれの徘徊を繰り返すわけだが、そんな日本人観光客に人気のゴーゴーバーの中で、僕が敬遠しがちな店が幾つかある。それは総じてタカリがうるさい店である。特に某店Hはロック調の音楽がかかるし、ステージ上のレディーたちのノリもいいしと、以前から僕が好きな店であったが、もう何年も通っているうちに顔見知りのベテラン勢が増えてしまい、いつの間にやら、最近では、めんどくせぇ店の一つになってしまったのだった・・悲)。

シビアな現実の世界で生き残るため、ベテラン勢は常々ドリンクバックとチップで毎日の生活を凌ぎ暮らしている。昔は売れっ子だった彼女たちも、今や醜くなってしまった裸体を人前にさらす恥じらいを覚えたが、同時にウエイトレスとして姿を変え、貪欲に生き残る手段をも覚えてしまった。売れっ子時代に貢いでもらった高級時計やブランドバックを、当時のよき思い出のように、今だ大事に身に着けているミスベテランゴーゴー嬢。彼女らは、これまでの豊富な経験で身につけたタニヤ嬢ばりの日本語会話術でもって獲物に近寄り、ドリンクをねだり、日銭を稼いでいく。ペイバー(連れ出し)が無理なら、パイ・ティアオ(遊びに行くこと)をねだり、しっかりとチップ(数時間の拘束代)まで強請る徹底ぶりである。もちろん、常客がいて毎月の仕送りを確保しているヤカラもいる。

そして、彼女たち側からすれば、僕のような常連客は、自分の過去(事情)を知られているわけで、敵に回したくない相手。だから、ニコニコとゴマすって、「サワディカァー、サバイディーマイ?」とワイ(合掌)をして近づいてきて、という関係性になってしまう。そして、適当な会話をしたら、数分後には「ドリンクを奢ってくれ・・」というパターン化した流れに持っていかれてしまうのだ。知人が連れ出したことがあるレディーなら、「誰それは今度いつ来るんだ?」とか、一緒に来た知人友人がいれば「その人を紹介してくれ・・」といった態度でハンターのように貪欲に獲物を狙いにやってくるのが常なのである。「ああ~めんどくせぃ!」。

そんなゴーゴーバーで、知人二人にレディーがついた。ロリ顔のAは22歳のイサーン出身で、働き始めて数ヶ月、肌もピチピチな田舎娘という雰囲気だが、7ヶ月の子供がいるというから、離婚して→出稼ぎという典型的パターンのようだ。一方、幾分シャイな知人についたBは、僕が知る限り、すでに2、3店を渡り歩いてきた今やベテラン組のウエイトレス。三十路前の歳の割には若く見える顔立ちは、北部出身ゆえか色も白く日本人受けするスッキリした印象で、多少の日本語も操ることから、まさにオヤジキラーといったタイプである。そして、数時間の酒盛りが続く中、新人さんの田舎娘Aは、まだ強い酒に慣れていないのか、ショットとは言いながら、思いっきり薄く割ったタイウイスキーのリンゴジュース割り(ショットグラス)をガブガブ飲み干し、お替りの杯を重ねている。店に教育でもされているのだろうか、この安っぽい酒で1杯120~150バーツも取るわけだから、何とも低コストで儲かるレディドリンクである。

そして、一方のBはまさにプロフェッショナルとでも言うのか、いや、ただ単に飲みたいだけなのか、テキーラショットでガンガン自らを奮い立たせていく。そして、ほろ酔い加減の田舎娘Aが僕に話しかけてきた。僕がパタヤに住んで長いことや、タイ人の奥さんがいることなどを話していると、いきなり、僕のミアノイ(愛人・妾)にしてくれと迫ってきた。「はぁ~?」。この娘はいったいどういう神経をしているのだろう。酔った勢い、若さゆえの欲望任せ。こういう典型的な早期離婚~シングルマザー(子持ち)で出稼ぎというパターンの田舎娘は、得てして、遊び半分であることが多い。何より若さゆえの好奇心が勝ってしまうのか、とりあえず都会の空気に染まってしまって、多少の金の余裕も手にできるようになると、夜遊びにはまり、そのうち、タイ男(ホストカラオケ)にはまるようになる。そして、貢ぐ生活が始まるというわけである。(多分)

一方、酸いも甘いも知り、遊びも一通りやってきたであろうベテラン嬢Bは日頃からのストレスでも溜まっているのだろうか。勢いよくあおり続けたテキーラショットで目尻も下がり、すっかり泥酔状態。客にしなだれかかり、キスをせがみ、ペイバー(連れ出し)をねだり、しっかり値段交渉を始めている。そして、僕は思う。「ああ、頑張ってるな・・」と。Bは中々の商売女で僕の苦手なめんどくせぃタイプの女性だが、裏の顔は田舎に子供がいて、毎月の仕送りを繰り返す母親の姿があり、「今は学期が始まる時期だから仕送りが大変なの」とか「今、一生懸命貯金してるから100万バーツ貯まったら辞めて何かビジネスをやるつもりなの」といった話を聞いたことがある僕としては、テキーラでベロベロに酔って客にペイバーを強請る彼女の姿は、まさにプロの仕業なのである。

そして、僕は、そんなプロフェッショナル嬢と田舎から出てきたばかりの新人娘を見比べては、酒のつまみとばかりに、一人思案にふけり、ほくそ笑むのである。(ふむ)パタヤのネオン街は2012年も相変わらずな様相だ。そして、対照的な二匹のゴーゴーレディーは、今日もまた、過激でシビアな夜の世界を、蝶(バタフライ)のごとく華麗に、そして蛾のように貪欲に舞い続けている。

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