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Fighting With Falung VO.2―ストーカーになったオトコ

投稿日:2004年1月12日 更新日:

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これは、あるファラン(欧米人)の哀れな物語である。彼の名前はスティーブ(仮名=36歳)。イギリス人の彼は、母国で歯科医を開業している、いわば上流階級のひとり。金にも幾分の余裕がある。彼は年の半分を仕事に費やし、またその半分を大好きなアジア、特に一番のお気に入りである常夏の国、タイランドで過ごしていた。

ここまで聞けば、誰もがうらやむ人生の楽しみ方といった感じだが、彼の悲劇の発端は、彼が俗に言う“デブ” だったことである。僕と彼が初めて知り合ったのはパタヤ。僕の行きつけのバービアであった。このバーには、僕のお気に入りの女の子、クン(仮名=18歳)がいた。彼女は色白で、まさに日本人が好みそうな可愛い顔立ちを持ったコラート出身の娘だった。

僕と彼女との関係は、仕事終わりでカラオケなどの遊びに行ったり、客がつかないときに僕の部屋に泊まりに来たりと、サバサバしたもの。その日も、僕と話しているクンにスティーブは一発で惚れ込んだ様子だった。僕もクンに「さあ、仕事だよ!」と告げ、彼女を彼の元へと追いやった。クンは客選びの上手な娘だった。いつでも金持ちそうな男。やらせなくても金をくれそうなコントロールできる男への嗅覚を持ち合わせていた。

クンは彼ともその得意の嗅覚を使って、三晩を共にし、計6,000バーツを稼ぎ出した。それでもデブはデブ。クンは彼が放つデブ独特の異臭をどうも我慢できなかったらしい。彼女は彼をあっけなく切り捨てた。でも、それが彼女の誤りだった。スティーブはすっかり彼女の虜になってしまっていた。彼は毎晩のようにバーに足を運び、一日に何度もの電話攻勢。彼女を必死に口説き落とそうとした。

だが、クン・クラスの可愛さなら自ら客を選ぶことはできた。しかし、毎晩のように彼に付きまとわれては、寄ってくる客も寄ってこない。仕事に差し支えが出てきたクンは「あのプンプイ・ファラン(=太っちょ白人)を何とかして!」と僕に助け船を求めてきた。僕は最初の晩のよしみから、彼に近づき彼を他のバーへと誘った。そして、もともと惚れやすい性格のスティーブは、すぐに新しい娘を見つけた。

でも、その子は友達の働くバーに遊びに来ているだけの娘。俗に言うフリーの娼婦だった。彼女は巧みな話術と色目を使ってスティーブに近づいた。彼の目もすでにメロメロだった。ものの30分もしないうちに、彼は、「この子が気にいった。部屋に連れて帰りたい。」と僕に告げてきた。僕は、それじゃあ…と二人に別れを告げると、その日は自分の部屋へと戻った。でも、彼女に対し、何かひっかかるものを感じていた僕は、軽い忠告ではないがスティーブにメールを送っておいた。

「スティーブ。なぜだかは分からないがあの子には何か嫌な雰囲気を感じた。気をつけて」と。するとすぐに彼から返信がきた。「何を言ってるんだい?俺はそんなこと全く思わないよ。何で、君はそう思うんだい?」。僕も再び返信した。「フリーの娘というのは、モノを盗んだり、警察沙汰に巻き込んだりと得てしてトラブルが多い。一応、忠告までに」と。

嫌な六感というものは当たるものだ。僕はあくる日、スティーブに「昨晩のセクシーギャルはどうだった?最高だった?」と彼にメールを送ってみた。そして10分後、彼から落胆にも似たメールが返って来た。「ああ、確かに最高だったよ。でも少々高くついたね。あの子は、私が寝ている間に財布から20,000バーツをくすね、起きたときには、もう足跡のひとつもなかったよ」と。おそらく睡眠薬でも飲まされたのだろう。僕らは、その日、彼女と知り合ったバーに行ってみたが、もちろん彼女の姿はなく、店の人に聞いても我関せずといった様子だった。

ここで新たな女の子を捜すのが普通の男。でもスティーブは違っていた。なんとあろうことか、クンの元へと戻ったのである。彼はクンの仕事上の見せかけの姿(=シャイ、素直、可憐といった姿)にゾッコンだった。そして、フリーの娼婦との嫌な体験が、彼の行動を以前よりさらにエスカレートさせた。「私にはもうクンしかいない」。でも、クンは相変わらずのシカト状態。過剰な恋は過剰な行動へとなった。スティーブは毎晩、彼女の出勤時間に合わせバーに赴いては、彼女の行動を逐一監視。そして、あろうことか、僕にその詳細メールを送り続けてきたのだ。

例えば、「クンは7時から9時の2時間の間に、すでに2度のショートタイムを終え、今夜3発目の相手はアメリカ人。推定50歳。」というふうに。そして、そのメールの内容も日を追うごとにどんどん粗悪なものになった。「彼女はあの可愛い顔で、男を手玉に取り、金を奪い取るPretty Poisonだ」。「彼女はウソを言うのが商売だ」。「彼女は恥らうという感覚を持ちあわせていない」。ついには「メス豚娼婦」呼ばわり。

クン本人に対しても深夜の無言電話。クンがバーに連れて戻ってきた客に対しては、クンの悪口を言い「その子はやめた方がいい」と余計なおせっかいを焼くなど、彼はまさにストーカーと化した。ねじまがった愛。そして、ついにスティーブは、そのバーから出入り禁止となったが、それでも彼は隣のバーから彼女を監視し続けた。もう僕も見ていられなかった。だが、この国では僕も所詮はよそ者、どうすることも出来なかった。

そして、とうとうバーの女の子達が立ち上がった。彼を懲らしめる作戦に打って出たのだ。ちょうどその時期はタイが誇る一大祭り、ソンクラーン(水掛祭り)を迎える頃だった。この祭りは、とにかく朝から晩まで、国民総出で水を掛け合うといった単純な内容のものだが、その使用される水の量といったらハンパではない。とにかく飽きるまで水を掛け合う。誰が誰に水を掛けても文句は言えない。サヌック(=楽しい)な事が好きなタイ人、暑い国ならではのお祭りだ。そして、そのソンクラーンも佳境を迎えたある日のことだった。あいかわらず、隣のバーからクンを監視し続けていたスティーブに対し、クンが久方ぶりに声を掛けた。

「もう、あなたに見られているのは我慢できない。冷たくした私が悪かった。今までのこと、ごめんなさい。私を許してくれる?また私を連れだしてくれる?」と。彼はあっけなく彼女の申し出を受け入れた。そして、彼はバーへの出入りを解禁となり、女の子共々、水掛け遊びに興じた。でも、それはもちろんクンたちが張った伏線だったわけである。彼女らがスティーブに向けて放つ水鉄砲には、得体の知れない汚水、また、友達がそのとき発病していたターデン(赤目)の膿み液も存分に含まれていたのだ。

ターデンといえばタイ人が一度はかかると言われる伝染病の一種。当然、目が赤くなり、痛がゆくなり、膿みも出る。ひどい人になれば、目もろくに開けられない嫌な病気だ。そして、この病気、発病者の近くで生活していただけで簡単に移されてしまう、おそろしく厭らしい病でもある。そして、久しぶりの女の子との触れ合い、水遊びにも意気揚揚の当のスティーブだったが、あくる日から、ひどい腹痛と熱に見舞われ、更には耳に入った汚水が原因で中耳炎も発症。そして、もちろんのこと、数日後にはターデン(=赤目)にも冒された。

それから、彼はホテルから一歩も出られない生活が続いた。そして、ようやく彼が回復した頃には、もう帰国の日が迫っていた。彼は放心状態にも似た表情のまま、イングランドへと帰国した。しかし、その後のクンはと言えば、あいかわらずのしっかり者。スティーブとは、その後も密に連絡を交わし合い、彼はけなげにも彼女に毎月の仕送りを始めていた。

真実は何も知らないままに…

クンはすでに他の常客との結婚を決め、今はその準備期間に入っている。仕事もしていない。彼の仕送りは、今、彼女と周りの友達の遊び代となっている。

 

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