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親子ゲーム―売春婦の女とその娘

投稿日:2004年1月31日 更新日:

oyakogame

いつの時代も、いつの日も、親子関係というものは、あやふやなものであり、かつ、根強いものである。それはもちろん、ここタイにおいても当てはまる。あらゆる性風俗産業に溢れた国タイ。そんな派手で華やかな世界の裏にも、やはり、もうひとつの世界が見え隠れしていた。「売春婦の女とその娘」。これは、バービアビジネスが溢れるパタヤならではの、悲しい親子物語である。

経歴10年を超えるベテラン娼婦のオウイ(仮名=32歳)には、愛する娘がいる。早くに、行きずりのタイ人男性との間に出来てしまった子だ。彼女の母親も過去に同じような結婚遍歴を持ち、オウイはこれまで母親の手ひとつで育てられてきた。当時、彼女の住むコラートの小さなアパートには、母親と彼女の子供、そしてオウイの3人だけ。

オウイは、この二人の面倒を見るために、近くのプラスチック工場で日中働き、家族3人は毎日の生活をつつましく繰り返していた。しかし、オウイの娘がまだ1歳にも満たない頃だった。母親が急性の白血病で、緊急入院。大事には至らなかったが、絶対安静の状態、病院での寝たきり生活を余儀なくされた。

オウイは、娘をコラートにいる親戚に預け、ひとりバンコクへ仕事探しに出た。しかし、労働賃金が高いと言われていた当時のバンコクも、所詮、学のない田舎者には用はなかった。コンビニエンスストアで働くにも、高卒以上の実績が必要なシビアな世界。彼女は、早い期間で大金を稼げる娼婦の世界に身を投じた。

そして、2年が経ち、3年が過ぎた頃、母親の様態も落ちつき、めでたく退院。母親の入院費用に、当時オウイが背負った借金の額も、このとき半分ほどになっていた。しかし、この先また何があるか分からない。母親の容体も、またいつおかしくなるかは分からない。オウイは、バンコクでの仕事を辞め、一路パタヤに行くことに決めた。そう決めたのには訳があって、バンコク時代、仕事をともにした仲間が、パタヤでいい旦那を見つけた・・・という情報を耳にしていたからだ。

ちょうど、都会暮らしにも疲れが出てきていたオウイは、パタヤへと身を任せた。華やかなバンコクとは違い、パタヤは、落ち着いた街だった。そして、オウイは、前の仕事仲間から紹介されていた、あるバービアに腰を落ち着けた。この頃、オウイはまだ21歳と若かったが、バンコクでの経験が彼女の気持ちに、余裕を持たせていた。

彼女は決して遊びだけの男とは行かなかった。バーではじっくり腰をすえつけ、お客と話をする。自分のことを本気で口説いてきた男、本気で愛してくれそうな男だけを選び、他とは一緒に行かない。という徹底した理念で、パタヤ娼婦生活を送った。田舎にいる娘は、早くからオウイと離れた生活をしていたため、娘には、オウイは彼女のお姉さんであると告げられていた。

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それから、オウイの娼婦歴も、すでに10年を迎える頃、彼女には愛する常客。愛する男性客が出来ていた。もう4、5年の長い付き合いだった。オウイは、彼の母国ノルウェーに行き、結婚しようと迫られていた。もちろん、母親が病気がちなこと、子供がいることなどは、彼に了承済みだった。この頃、ようやく長かった借金の返済も終え、娘も問題なく学校へと通っている。

彼について行けば、娼婦業を繰り返す必要は全くない。オウイは、これがいい時期だと思った。オウイの母親も、もちろん彼の申し出には賛成だった。しかし、オウイには、愛する娘がいた。もし、彼と結婚するなら娘も一緒に連れて行きたい。娘は、もう10歳を迎える年頃だ。オウイは、このとき意を決して、娘に自分が本当の母親である真実を告げた。

しかし、借金返済のために仕事に明け暮れ、全く田舎へと戻って来なかったオウイは娘にとって、赤の他人同然だったのである。悲しくも娘は、オウイが母親である真実を受け入れてはくれなかった。そして、そのショックも手伝い、オウイは、その常客との結婚の話を破棄した。

それから、オウイは、娘のために働いた。自分のことを分かってもらうため、娘にいい思いをさせるため、どんな男からの誘いも受け入れ、身を任せた。しかし、たまに田舎に戻っても、娘にとっての母親はオウイの母親。オウイは相変わらずの他人様だった。

それでも、オウイはめげなかった。そのうち娘はきっと分かってくれるはず。オウイは娘のためだけに働いた。毎月2万バーツを越える田舎への送金、娘に欲しいものがあれば、すぐに追加送金もした。しかし、それが彼女の更なる不幸を招こうなどとは、オウイ自身も全く予想していなかった。充分過ぎるほどの仕送り、教育費用。

娘は14歳を迎えた頃、全く学校に行かなくなってしまった。オウイの行き過ぎた愛情、行き過ぎた仕送りが、娘の甘えを産み、彼女を非行へと走らせたのである。そして、母親からは毎晩のように電話がかかってきた。「あんたの娘は、もう学校にも行かない、遊んでばかり。でも、年寄りの私にはどうすることも出来ないし」。娘の周りには、悪友が群れた。娘は、盗難事件、ドラッグ、麻薬と次から次へと悪の道へと自らを染めた。

オウイは、やむなく仕事を休み、田舎へと戻った。そして、このとき、娘がちょうど夏休み期間中だったこと、また、コラートをしばらく離れさせたほうがいいと考え、オウイは娘にパタヤ行きを勧めてみた。娘も所詮はまだ子供、遊び感覚とはいえ、喜んでオウイとのパタヤ行きに賛成した。

しかし、仕事もそんなに休めない。オウイは、パタヤに戻ってきてからも直ぐに仕事を再開した。そんな母親の姿を知ってか知らずか、娘は、パタヤに来ても相変わらずだった。14歳にもかかわらず、オウイからもらったお小遣いで、カラオケ、ディスコとパタヤでも夜遊びを再開。娘にとって、オウイは何ともない存在だったのである。

ついにしびれを切らしたオウイは、娘を自分のバーへと連れこみ、彼女にお店を手伝わせた。もちろんグラスを洗ったり、ドリンクを運ぶだけの簡単な仕事で、正式に雇ったわけではない。「ただ、お金を稼ぐことが、どんなに難しいことなのか分かって欲しい」。「私がどれだけ嫌やな思いをして、田舎に仕送りしているのか分かって欲しい」。

娘にこんな世界(仕事)を見せるのはこの上なく胸が痛かったが、これが娘に対するオウイなりの愛情だった。そして、オウイにとっては最後のかけだった。しかし、娘は、そんな予想を遥かに上回る図太い精神の持ち主だった。娘は、14歳の年にして、オウイの目を盗み、客に愛想を振りまいた。そして、挙句の果てには、オウイが連れ出されたのを確認すると、自らも客を取り、ショートタイムを繰り返したのだ。バーの他の女たちはあっけに取られた。

娘は、客に18歳と偽ったが、まだ、このとき14歳だったのである。オウイに似て、色気のある子だった。18歳と言われれば、誰も疑うものはいなかった。そして、何件も林立するバービアの集合群が、娘の歳をごまかすのには、充分な理由だった。娘はただの小遣い稼ぎのためだけに、パタヤ滞在の一ヶ月間、オウイの目を盗んでは、気にいった男と夜をともにした。オウイは、もう何も言えなかった。自分の仕事がそうなのだから、娘には何も言えなかった。

タイは性風俗産業に溢れた国。それに付随し、いろんな家庭が存在する。結婚したファラン(外人)に出資してもらい、バービアを経営する元売春婦のオーナーとその娘。行きずりの観光客に捨てられ、子供とふたり、売春業に手をそめる親子。不甲斐ない親の借金返済のため、泣く泣く売春で金を稼ぐ、その娘。悲しいかな、これが派手で華やかな世界の裏にある、真実の姿なのである。悲しいかな、これがあなたの前に座る、売春婦の素顔なのである。

パタヤのネオン街は、華やかに人々で賑わっている。そんな中、今日もまた一人、バービアには新しい売春婦が誕生する。

 

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