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パタヤジョイ【完】―再会の夏

投稿日:2005年1月7日 更新日:

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何事も知りすぎるということは退屈なことだと思う。仕事、趣味、恋愛、、それは全てのことに言えることで、新鮮さがなくなると、どうしても飽きというものはきてしまう。それは、とても危うい人間の性質であり、かつ、次の目標を定められるという点では、なくてはならない性質でもある。

ただ、僕は、タイの、特に夜の女性のことに関して、知りすぎてしまったようだった。僕が、不覚にも、タイで、初めて恋をしてしまった女性ジョイとの再会の日は、突如として訪れた。

「ヒロ、今、どこにいるの?」。「ソイ○×のファミリーマートの前の食堂にいるんだけど、ジョイはどこにいるの?」。「実は、私もヒロと同じソイの屋台でバーミーを食べてるんだよ」。「えっ、どこ、どこ?」。僕は辺りを見渡した。それらしき屋台は見当たらない。

「セブンイレブンの前よ」。「あっ、あそこの屋台だ!ジョイ、5分でそこに行くから、待ってて…」。「えっ!でも、ヒロ、今、彼女いるんでしょ?」。「そんなこと関係ないよ。僕は、ただ、ジョイに会いたいんだ。会って話をしたいんだ。話したいことは山ほどある」。

彼女と過ごした時間は、ほんのわずかだが、僕にとってそれは濃密な時間。数年前に突然、そして、何の前触れもなく連絡が途切れ、音沙汰もなくなった僕にとっては、ジョイに聞きたいこと、確かめたいことは、もちろんたくさんあった。「ジョイ、絶対、待っててよ!」。

電話の内容を聞いていた仲間たちは、ニヤニヤとしながら、僕の様子を伺っていた。そして、皆が皆、以前の僕の恋物語、ジョイのことを耳が痛くなるほど、僕から聞かされていた。「ジョイって、ヒロがよく言っていたジョイから?」。「そ、そうなんだよ。今、近くの屋台にいるって」。「まじかよ、じゃあ、グズグズしてないで、早く行けよ!」。「OK、また、あとで電話する」。

僕の頭の中は、いろんな思考でいっぱいだった。ジョイが突如として僕からの連絡を断ったこと。イングランド人と結婚しているであろうこと。でも、そのとき、そんなことは、もうどうでもよかった。ただ、僕をタイにはまらせた、、少なからずも僕がタイに移住したひとつの理由であるジョイ。あの眩いばかりのとろける笑顔を、もう一度、見てみたかった。

僕は電話を切って3分後には、ジョイがいるであろう屋台に到着した。辺りを見渡す。ジョイの面影を追う。更に広い範囲で、辺りを見渡してみる。それらしき女性はいない。屋台のおばさんに尋ねてみる。二人組の女性なら、さっき、この場から離れたと、おばさんは言った。分けが分からなかった・・・。

「あっ、そ、そうだ!」。先ほど掛かってきた携帯の着信履歴に電話をかけてみる。2、3コールで彼女は出た。「ハロー!ジョイ?今、どこにいるんだよ。僕は、今、ジョイの言った屋台に来てるんだよ」。「ごめんなさい。今、お姉ちゃんのアパートに戻ってきたの」。「アパート?どこなの?とにかく、今、会いたいんだ」。そのとき、僕は、今、ジョイに会わないと、もう二度と彼女に会えないような気がした。

「ヒロ、彼女いるんでしょ。私、彼女にも悪いし」。「それは関係ないって!」。誰から聞いたのか。ジョイは僕に彼女がいることを知っていた。そして、悲しそうな声で答えた。「じゃあ、何で電話してきたんだよ!」。訳が分からず、思わず僕は怒鳴ってしまった。「いや、それは・・・。おやすみなさい、ヒロ・・・」。そして、ジョイは一方的に電話を切った。僕は、あわてて、再度、電話をかけ直そうとしたが、ジョイの携帯はすでに切られた後だった・・・。

次の日、その次の日、僕は待ったが、ジョイからの連絡はなかった。僕は、着信のあった番号に何度も電話をかけてみた。しかし、それは友達の番号だったらしく、僕がジョイのことを尋ねても友達からの返事は、知らないの一点張りだった。

どうしても、ジョイに会いたい。顔が見たい。出来れば、タイ語を話す今の僕で彼女に会いたい。タイ事情を知ってしまった僕で彼女に会いたい。嫌な考えだが、僕の中で、唯一、神聖な存在であるジョイ、、僕は、そんな彼女の本質を確かめたかったのだろうか。

あの突然の電話から、3日が過ぎた、昼過ぎのことだった。僕の携帯電話が、再び知らない番号からの着信を知らせた。「誰??」。僕は現在ジョイではない彼女と約1年ほど、共に暮らしている。タイ人女性というものは、日本人女性と比べ物にならないほど、嫉妬や詮索をする生き物である。これはタイに住んで、僕が数人ながらもタイ人女性と付き合い感じている印象だが。

そして、このときも彼女は執拗に僕に「誰からよ!」と半ば怒ってけん制してきた。女の本能。そして、僕の胸の高鳴り。ジョイであることはなぜだか確信できた。そして、僕は恐る恐るも電話に出た。「ハロー?ユー、Hiro?」。その声は、聞き覚えのある野太い、だが、女のような声。「Yes... ユ、ユー、Eye?」。

そう、その声は忘れもしない、ジョイのオカマのお姉さん、アイからだった。横を見ると、彼女が怪訝そうな顔立ちで僕を睨んでいる。「OK, OK, I can see you.... OK, bye!」。向こうの話など聞かずに、一方的に話し、電話を切る。そして、疑う彼女には、知り合いのアメリカ人だとウソをつき、僕は、ちょっと外に出てくると、彼女を突き放した。

部屋を飛び出すと、すぐに先ほどの番号にかけ直す。「ハロー!ハロー!」。「ハロー」。今度はジョイだった。「Joy? I wanna see you... please... just see and talk to you...」。ジョイはお姉さん(オカマ)の部屋にいると言った。「どこなの?」。そこは僕のアパートから歩いても5分くらいの近距離だった。「今から会いに行っていい?」。ジョイは小さい声でうなずいた。

ついに、ジョイに会える。今だ鮮明に頭の中にいるジョイの笑顔、写真の中のジョイの笑顔、、そんな想像いっぱいで、僕はジョイのいるアパートに向かった。指定されたソイ(小道)に入る。50mほど先に、あのときのまま、小さな背丈の女性が見えた。

あのときのまま、とてもとても小さな肩。褐色の肌。違ったことはと言えば、髪が長くなったように見える。僕は思わず駆け出した。「ジョーイ」。なぜか、ウブなあのときの自分に戻りつつある感覚を覚えた。満面の笑みで、僕を受け入れるジョイ、、思わず、抱きしめてしまった。ジョイの香り、こんな匂いだったろうか。

「ヒロ、痩せたね」。「ホント?」。この数年間で、ジョイの顔立ちは一段と大人の女性のように変化していた。「ヒロ、タイ人みたい…」。「ホント?」。ジョイの笑顔は、変わっていなかった。大きく開いた口からこぼれ出る、とろける笑みは相変わらずだった。

僕らは、その後、数時間、語り合った。ジョイの友達から聞いた、ジョイがすでに結婚しているという事実は間違っていた。イングランドへ行くための、いわゆる定住ビザを取ることが難しいことは、僕でも知っていた。結婚は近い将来する予定らしいが、そのためにはネイティブ並みの英会話力でインタビュー(面接)に答えることが要求される。ジョイはいまだ英語学校に通う身だった。

「そっか、でもホントに結婚しちゃうんだね」。なぜか切なくなった。「ヒロも今、彼女いるんでしょ?」。「うん、でもジョイのことは、あれから忘れたことなんてないよ」。「ウソばっかり」。

そして、ジョイはおもむろにバッグから一枚の写真を取り出した。それは、あのとき、、僕の中では魅惑の空間であったあのときの二人の写真だった。僕は、その写真を手に、あのときの僕らに思いを馳せた。それはBIG-Cというデパートの前で取られた写真だった。そして、そのときの記憶は鮮やかに蘇ってきた。

ジョイは結婚を決心して、最後に僕に会おうとしたのか。それとも、まだ僕のことを思ってくれているのか。「ジョイ、結婚はいつなの?」。「うん?そんなのまだ分からない」。彼女は、今、将来の旦那と一緒にパタヤに遊びに来ているとの事だった。「彼は、いい人?」。「う~ん、とっても焼きもち焼き。もう、ウンザリするぐらい」。彼の歳は僕と同じ29歳、ただ、母国で会社を経営しているという金銭的な安定が彼にはあった。

そして、その後も、ジョイは暇さえあれば、僕に電話をかけてきた。でも、それは決まって昼下がりのことで、理由は彼氏が仲間とゴルフに行ったり、食事に出かけている間であった。僕は同居する彼女にウソをついては、日中のデートをジョイと重ねた。ただ、それはデートといえるような代物ではなく、お姉さんのアパートでの密会だったわけだが…。

僕は今のありのままの自分の現状をジョイに告げた。もちろん、ウソ偽りなく、僕はタイ語を使用し、彼女に語りかけた。タイ事情を知ってしまった僕の話に、ジョイは悲しそうに耳を傾けていたが、それが今の僕だった。ただ、僕の中ではタイ語で会話するジョイは非常に新鮮なものに感じられた。

ある日、僕はジョイにキスをした。もちろん、同居する彼女には内緒のこと。だが、あのときのピュアな自分を抱えたまま、接する事ができるタイ人女性はジョイだけのような気がした。それはかなり言い訳がましいことだが、僕はそれほどタイのことを知ってしまったように感じた。「ヒロ、来週の月曜日、彼は、早朝からゴルフに出かけるの…」。僕も我慢の限界だった。僕の男性本能がムズムズと音を立てだしていた。

「じゃあ、どこかに遊びに行こうよ」。「それはダメ。彼、パタヤにも知り合いがたくさんいるから。ヒロの部屋はダメなの?」。「い、いや、それは無理だよ」。僕のアパートにはもちろん彼女がいる。「私と彼女、どっちが好きなの?私、ヒロのアパートに行きたい」。ジョイと再会して、1週間ほどが経つと、彼女は執拗に僕の彼女のことを口にするようになった。

僕はいまだにジョイのことが好きだった。以前は自分がバカだと感じるぐらいに彼女のことを愛おしく思っていた。そして、そこから解き放たれたはずの気持ちたちは、ここ最近の出来事で再び呼び起こされつつあった。でも、これ以上、先にいってはいけないような気も感じ始めていた。

僕は、そんなジョイをけん制し、僕のアパートで会うのは無理だと答えた。悲しそうなジョイの顔が胸をついた。自分勝手な考えだが、僕は今の彼女も大切な存在だった。そして、ジョイにも彼氏がいるじゃないかという正当であり、理不尽な理由もあった。

僕らは、翌週の月曜日、どこかのホテルで二人きりでのんびりすることを約束した。一緒にいることが出来る時間は、朝から夕方までの数時間。それまではいつもお姉さんのいるアパートだったので、僕は無性に嬉しかった。ただ、同居する彼女を裏切っている、それは確かに、精神を奪われつつある、真実の浮気のように感じた。

ジョイは僕の彼女に嫉妬するような行動を取るようになった。僕の携帯から彼女に電話をかけようとしたり、何とか僕の住まいを聞き出そうとした。僕は決して住んでいるアパートの所在地をジョイに教えなかった。そして、僕もジョイの彼氏に嫉妬し、ジョイが彼氏と一緒に居そうな時間にわざと電話をかけた。僕の思考はもうどうしようもなかった。

あの魅惑のひと時を過ごしたジョイ、今のジョイ、、彼女の存在はどう押さえても、僕の心の中で大きく膨らんでいく一方だった。僕はどうすればいいんだろう。僕は悩んだ。もう一押しすればジョイは僕のところへ戻ってきてくれそうな気がした。自分の感じるままに生きる。物事をシンプルに考える。流されるままに・・・。僕の信条だ。だが、それでも、僕は悩んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

バッグパックの奥にこっそりしまっていたノート、以前、旅行者時分につけていた日記帳を開く。ジョイとの狂おしいばかりの魅惑の日々は、そこにしっかりと綴られていた。

更に、以前、使用していた日本の携帯電話を取り出す。すでに解約された電話機、タイではもちろん使用できるはずもなく、充電すらも出来ないただのおもちゃ。それでも、その機器の中にはジョイの音声がいまだしっかりと残っている。

「Hello..honey.. I miss you, I want you, See you again 3months later..OK? Don't cry for me..OK?」。あのとき、僕とジョイがこの常夏の国でひと時を過ごしたという紛れもない証拠。女々しい性格の僕は、ここ数年の間でさえ、ふとジョイのことを思い出すと、この機器をバッグから取り出し、ジョイの声に耳を澄ませ、あのときの空間に思いを馳せていた。

そのおもちゃと化した携帯機器に、再び手をかける。

だが、いくら押しても、携帯の電源は、立ち上がらない。

はっとした。少なくなった電源は、すでに、このとき終わりを告げていた。

何かの暗示のように思えた…。

それから、数日、僕はジョイに電話をかけようとはしなかった。そして、ジョイから電話が掛かってくることもなくなった。不思議だった。でも、これが運命だったのかもしれないと思う。ジョイにとっては、それが幸せなのだと分かっていたはずだった。そして、僕には、いまだ彼女をどうすることも出来ないという現実も分かっていたはずだった。僕は再び登録したジョイの電話番号を携帯から抹消した・・・。

だが、僕の記憶は決して消えない。そして、なぜだろうか、僕には妙な確信すらある。また、ここパタヤの地でジョイの笑顔に会えそうな気がする。そのときの僕らはどうなっているのだろう。なぜか、彼女とは今後もずっと繋がっていそうな気がする。(完)

 

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