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あなたの知らないタイランド―世にも奇妙なピー物語

投稿日:2013年10月14日 更新日:

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タイに長く住みタイ人と接すれば、タイ人がいかに怪談話が好きで、実際にピー(幽霊)を見たとか、夢でお化けが出たとか怪奇現象が原因で引越したなんて心霊体験談を耳にするし、この手の話は道端の石ころのようにその辺に転がっている。そして、僕のタイ嫁もその一人で夢の中で先祖の霊が現れたとか、実際これまでにもピー(幽霊)を見たという話を何度となく隣りで聞かされてきた。(ちなみに僕は見たことがないが信じる派)タイにはピー(精霊)信仰、そして仏教が日々の生活の一部のように深く根付いた環境があり、テレビドラマでは呪術的な儀式とかピー(幽霊)が出てくる場面をよく見かける。言い換えれば、ハートフルホラー(心温まる心霊モノ)というようなジャンルが人気で興行が成り立つ文化があるといった雰囲気であるが・・・。先日まさにハートフルホラーと言うにふさわしい実際起こったという出来事をタイ嫁から聞いた。これは嘘のようなホントの話である。(ノンフィクション!?)

物語の主人公はタイ嫁の友達(知人)の一人で仮にP子と呼ぶことにしよう。P子(30代後半)はパタヤの某ソイ(小通り)にある賃貸アパートで田舎から出てきた弟と一緒に二人暮らしを続けるタイで言えば一般庶民階級の女性。彼女はアパート1階部で美容院を個人経営しながら軒先で簡単なタイ食も販売し生計を立てている。タイ嫁はその美容院を時々利用したり、彼女の作るソムタム(青パパイヤサラダ)も好きでしばしば通っているという関係性だ。そしてソムタムつまみに井戸端会議にも花が咲くという按配であるが、そんな折、P子が自分の身の回りで最近起こった出来事をタイ嫁に話したのだった。「実はさぁ、信じられる?私の話を・・・」といった具合に。。。

それはある日の昼下がり―。P子が部屋の鏡台の前で化粧をしていると、突然、目の前に置かれた香水のビンが「ボンッ!」と音をあげ、破裂するように割れて壊れてしまったという。もちろんのこと、その瞬間はびっくり驚愕した彼女だったが、普段から幽霊を見たり、信心深いタイプ(性質)である彼女はすぐに「何よ!誰なのよ?」といった感じで、ちょっとした霊の仕業(いたずら)に違いないと周囲で感じるものに対し声を投げかけた。それはこれまでにも経験したことがある日常のちょっとした偶発的事故(心霊現象)のようなものだったが、その時、P子は何とも言えない悪寒を感じ、鳥肌が全身を覆ったという。。

そして、その夜。。彼女の夢の中に小太りの中年女性のピー(霊)が現れた。それは夢の中なのか、実際に見て感じている事象なのか、よく分からなかったが、、髪を振り乱しながら自分に迫り来る小太りの中年女性はP子に対し、「ここはワタシの家だ、、オマエは邪魔だ、、ここから出て行け、、」と鬼の形相で迫り訴えかけてきたという。。(恨めしや~)

翌日。。悪夢のような昨晩の出来事をはっきり身体の感覚で覚えていた彼女は、恐怖を感じながらも、ただ、「この問題をすぐにでも解決しなくては・・」という得も言われぬ思いで満たされていただけだという。そして、普段から毎日のように寺参り(タンブン)を繰り返す敬虔な仏教徒でもある彼女は、早速その日、弟を引き連れて、とある寺院へと赴き、この手の話を相談出来るであろう和尚(僧侶)に事情を話した。その和尚は特に驚いた表情を見せるでもなく、「よくあることじゃよ」的な言葉を彼女に一言語りかけると、ゆっくり座禅を組み~目を閉じ~しばらく瞑想の時間(境地)へと入っていった。。

それから「フムフム、なるほど・・」と事態を把握したかのような和尚はP子に自分が感じるイメージを伝えた。「まあ、悪い霊ではなさそうじゃ。それはあなたも何となく感じて分かっているじゃろう。その小太りの女性は20年程前にそこで亡くなった方じゃ。あなたが住んでいるアパートは10年前に建て変わったようで以前は小太りの女性が住む家があったようじゃな。それで彼女はあなたに出て行け!と訴えかけておるわけじゃ」。P子はすぐに引越した方がいいのか、それとも線香でもあげて霊を供養すればいいのか解決策を求めたが、和尚は「それは小太りの女性の霊と話して直接聞けばいい。あなた次第じゃよ。」と投げかけるだけだった。そして心配する彼女に対し、「大丈夫。ここから戻ったら、無事問題を解決して幸せを手に入れているあなたの近未来が見える。」と確信したかのような優しい言葉をかけてくれたという。。

すると、それまで事の次第を黙って見守っていたP子の弟がようやく口を開いた。和尚の言葉で緊張の糸が切れたのか、姉の話にはさほど関心がないのか、「ところで僕はどうですかね?これまで金にも仕事にも全く恵まれてないし今後の人生もこんな感じがずっと続くんでしょうか。ちなみに今日もこの寺に布施するほどの金も持ち合わせていないですし。」 悲壮な表情でぼそり呟くと、しばらくして和尚はにっこり彼に微笑みかけ、「君にも近い将来良いことが起こるようじゃ。心配せんでもいい。君はお姉さんより更に多くの物を手に入れて幸せになっている様子が見える。もうしばらくの辛抱じゃ。」と問題の姉以上に優しい言葉を彼に投げかけた。それでもP子の弟は和尚に対し、どちらかと言えば半信半疑の表情を見せるだけであった。。。

それからアパートに戻ると、P子にはもう恐怖といった感情はなく、ただ早く問題を解決したいという思いと、小太りの女性のピー(霊)に対するどうしようもない怒りで支配されていた。P子は部屋の周囲を見渡し、何とかその気配を感じようと己の感覚神経に注意を傾け、自らの身体に受信アンテナを張り巡らすように集中することに努めた。そして、しばらくすると、P子の心の中に、ある思いが湧き上がるように感じられた。それは「引越し」という信号(結論)であった。その刹那、もう自分がここを出て行くしかないと悟った彼女は「分かったわよ!私が出て行けばいいんでしょ。じゃあ、アナタのお望みどおり出て行ってあげるわよ。ただ、その代わり、私はアナタの言うことを聞いてあげるんだからアナタも私の言うことを聞きなさいよ。もし私がこの後ちゃんと約束を守ってここを出て行ったら、引越し代だってかかるんだから、その分、ロッタリー(宝くじ)でも当選させて返してよ。それぐらいならアナタでも出来るでしょ!どうなの?分かったの!?」なんて感じで部屋中に向かって怒鳴り散らしたそうな。。。

それからP子と弟は一週間と経たずにアパートを解約すると、新たな住まいを探し、引越しを済ませた。せっかく作り上げた美容院も手放し、引越し代と出費もかさんだが、これで良かったのだと不満を述べる弟を何とかなだめた。そして、もちろんのこと二人はそれぞれ宝くじ(ロッタリー)を買うことも忘れなかった。迎えた宝くじの抽選日。。小太りの女性のピー(霊)は本当に約束を守った。彼女もまた生前ロッタリー好きだったのだろうか。P子が買った宝くじは見事当選し彼女は数十万バーツを手にした。更にP子の弟も何とあろうことか三百万バーツという大金を当てたのだった。全く信じられないような話である。(アンビリーバボー!!)

それからすぐに二人は和尚のいる寺院へとお礼参りに赴いた。すっかり改心したのかP子の弟はその寺院に十万バーツ近くお布施(寄進)し、P子も数万バーツをお礼として置いてきたそうだ。その後、二人は当選金を使い、パタヤのジョムティエンにコンドミニアムを購入し、再引越し。。これまでも敬虔な仏教徒だったP子は今回の体験で、ますますその信仰心に火が灯ったようで、ピー(精霊)信仰とか精神的な世界観が実際存在するという事実に確信を抱いたということだった。

そして、話を終えた彼女は、ただ、「チュアダイマイ?(信じられる)」、「インポッシブンッ!(ありえない)」といった言葉を何度も噛み締めるように口にするだけだった。。P子の弟は今後何か商売を始めるようだ。そして、P子はこれからしばらくは余裕ができたのでお礼参り(タンブン)を兼ねてタイ全土を寺巡りしながら、のんびり国内旅行をする予定だそうだ。

「チュアダイマイ?(信じられる)」。扉は確かに存在し、その存在を素直に受け入れることが出来れば、それは入口となるのかもしれない。ただ、次に住むアパートの住居人がどういう物語を紡ぎだすのか。それはまたこれから始まる物語である。

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