「私は、今、彼氏がいなくて寂しいの」。「私はファラン(白人)が大嫌い」。「日本人は優しいから好き」。もしナイトバーで、日本人のあなたが、こんな言葉を隣りに座る彼女に言われたら。あなたが数分後に取る行動が手に取るように分かる。「ふ~ん、日本人が好きなんだ。俺って優しい?君は素朴で可愛いねぇ。よし、どこかに遊びに行こう」。
あなたは、とっても上機嫌。酒の勢いも手伝って、もちろん彼女をペイバー(連れ出し)するわけだ。さあ、次はどこに遊びに行こう。「すぐホテルに戻る?それとも、どこか行きたいところはある?」。あなたは彼女に尋ねる。何かにつけ疑い深く、Yes・Noをはっきり言うファラン(白人)と違って、優しい(=何でも言うことを聞いてくれる)日本人は、彼女らにとっては都合のいい客層のひとり。
彼女らが、この客はコントロールできると判断したら、もちろん彼女らの頭の中からS●X(仕事)の文字はなくなる。彼女らがあなたに対して答える言葉は、パイ・ティアオ(遊びに行くこと)だ。人のお金で楽しもうとすることしか、彼女らの頭の中にはない。「私、カラオケに行きたいんだけど、いい?」。よその国で、カラオケに行きたい奴などそうそういない。しかし、あなたの答えは決まって、「あぁ。いいよ」。Noの言えない日本人。
「友達も誘っていい?」。彼女と二人きりで遊びに行きたいはずのあなた、なんで友達も?でも、あなたは、曖昧な返事をしてしまう。「えっ、うん、別にいいけど」。そして、日本語の曲があるからという理由でなぜかあなたは言われるがまま、彼女行きつけの店へ行くはめに。しかし、そこには、なぜかタイ人男性の従業員ばかり。
「ん?ここはカラオケなのか?」。多少疑いながらも、席に落ち着いて、数分後。テーブルの横には、ウイスキー、コーラ、氷などのドリンクセットが到着。「こっちのほうが安くつくから」。「へぇ、そうなんだ。気のきく娘だねぇ(僕のためを思ってくれてるんだ)」と彼女に感心するあなた。素直なものだ。
でも、これにはもちろんカラクリがある。ここは、タイ人娼婦がよく足を運ぶカラオケクラブなのだ。そして、色男が並ぶカラオケの男性従業員たち。女と男の立場を逆転させれば、ここは、あなたが先ほどまでいたバービア、ゴーゴーバーと仕組みは同じ。女性が男性をペイバー(連れ出し)することが出来る。いわば日本のホストクラブのようなものなのである。
そして、テーブルの横につきドリンクや、カラオケのリクエストを逐一テイクケアしてくれるのは、彼女お気に入りのホストくん(あるいは彼氏)。もちろん、彼女はこのタイ人男を、自分の横に座らせたいためだけにドリンクセットを注文したわけだ。
そして、彼女が言う。「彼は、私たちのテーブルの専属ボーイといったところ。私たちをテイクケアしてくれる彼にも一杯いい?」。バツが悪いから、あなたは、もちろん彼女の申し出を断れない。チップのようなものだと自らを納得させ、あなたはうなずく。「オ、オーケェー」。しかし、同じ酒を飲むかと思った彼は、なぜかオレンジジュースを注文。「えっ、なぜ?」と、あなたは、多少むかつきながらも、頭を抱える。「仕事中だから、お酒は飲めないの」と、彼女が言う。
でも、これにも裏がある。ドリンクをおごれば、もちろん幾らかのドリンクバックが、彼の元にいくわけで、これも女の子のいるバービアやゴーゴーバーと同じシステムだ。しかも、このオレンジジュースが高い。一杯120B近くはする。そして、そのうちの半分ほどは彼の元に。実際は、酒を飲んでもいいのだが、原価の安いジュースを頼んだほうが、酒を頼むより彼の元に入るお金が大きいわけだ。そして、数時間後、大好きな彼(カラオケの男)と過ごし、上機嫌の彼女と、思ったより高くついた伝票に頭をかしげるあなた。あなたは、ただの財布同然だったのである。
パタヤに限らず、遊び好きなタイ人が、仕事終わりで友達と行くところはといえば、大体、ディスコかカラオケと相場は決まっている。そして、普通の人達より多少お金に余裕のある娼婦は、お決まりのように、自らの身体を売ったお金で、ホストカラオケへ足繁く通うようになるのだ。これは、日本でいう風俗嬢が、ホストクラブにハマる感覚に似ている。
話したくもない英語をしゃべり、話したくもない客と会話しヤリたくもない男に身をまかせる。やはり娼婦というものは辛い仕事だ。田舎の家族を養うためと自らを納得させ、我慢を繰り返してきた彼女だが、やはりお金に余裕が出来るとどうしても遊びたくなるのは、人間の当然の行為。はじめて友達に連れて行ってもらったカラオケクラブ。
男たちは、皆が皆、優しくしてくれる。しかも言葉の通じるタイ人。色男とくればハマらない理由はない。前の彼氏、別れた旦那以来、久しぶりのタイ人男性に、オベッカを使われ、まさに彼女は女王様気分になってしまう。でも、そんな状態もほんのわずかな期間だ。いつのまにか、客(彼女)と男(カラオケの男)の立場は逆転する。そう、日本のホストクラブのように。
「私には、今、彼氏がいないの」。そのほとんどが、「うそ」である。彼女には、現在、お金を貢いでいる彼氏がいる。娼婦と、そのヒモ(カラオケの男)というケースが、驚くほど多いのが娼婦の現状なのである。あなた(=客)を、カラオケへ連れて行く。彼女は意気揚々と店の従業員たちにタイ語で話すのだ。「今日もいい客(スポンサー)を連れてきたわよ」。あなたにはダーリンだのハニーだの愛してるだの囁いている彼女、しかし、ここでは、決して、あなたを彼氏(ボーイフレンド)とは紹介しない。あなたは彼氏ではなかったのである。
また、『貢ぐ女』と化してしまった娼婦は、カラオケで働く彼氏を自分だけのものにするため、男の仕事を辞めさせるケースが多い。そのとき、恋愛本能に再び火がついた彼女の頭の中には、親への、田舎の子供への仕送りの考えはない。彼女も所詮は、ひとりの女なのだ。稼いだお金は、すべて愛する男をつなぎ止める道具と化してしまう。そして、カラオケを辞めた彼氏の日課はといえば、ダラダラと夕方近くに起床、彼女からもらったおこずかいを手に、友達を引き連れ、バー、スヌーカーなどの盛り場へ。そして、彼女の仕事が終わる深夜2時過ぎ頃に、彼女からの電話。バイクで彼女を迎えに行くという算段だ。
ゴーゴーバーの女たちは、その多くが『貢ぐ女』 といっても過言ではない。バービアよりもハデで、大金を稼ぐことが出来るゴーゴー嬢。しかし、出勤中、繰り返されるダンスショーに、多い娘ともなれば、一日3、4回と繰り返されるショートタイム。心も身体もボロボロになるのは、当然のことだ。でも、その分バービアの子よりも稼ぎは多い。実家への仕送りも充分。となれば結果、男遊びを始め、最終的には、『貢ぐ女』 へと変貌してしまうのだ。。ゴーゴーバーのメッカ。パタヤウォーキングストリートの裏街道。仕事終わりの深夜3時過ぎともなれば、バイクに乗ったタイ人彼氏に連れられ、帰宅する娼婦を多く目にすることが出来る。
また、ゴーゴー嬢はレズビアンが多いとも言われる。トムボーイと言われる男の格好をしたボーイッシュな女が彼氏。ショートカットの呼び込みや店員が多い店には、同じく、レズも多くいる可能性が高い。もうタイ人男にコリゴリの娼婦、辛い仕事に、親のこと、子供のこと。疲れた精神を癒してくれる相談相手になってくれるのが、トムボーイなのだ。元々女である分、話しも男よりよく理解してくれる。そして、ノンケの女が禁断のレズの世界へと走るのだ。だが、その後、彼女がこのトムボーイに『貢ぐ』 羽目になるのも、また紛れもない事実なのだが。
「私には、今、彼氏がいないの」。 「タイ人の男なんて大嫌い」。そんなことはない。彼女にはカラオケの男がいる。トムボーイの彼氏がいる。そして、あなたがあげた、日本から送ったお金は、彼女の手元には何も残らない。回りまわって、いろんなところへと流れているのだ。
「 This is Thailand!」。ここはタイである。 やはり、タイ人はタイ人が好きなのだ。