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男たちの南国物語 VO.59 タイ製品の輸出入代行業スタート!―パタヤ商売編

投稿日:2019年12月15日 更新日:

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「初めまして、自分は○○と言います。そして、こちらが××です。どうぞよろしくお願いします」

いつも通り口火を切ったのはリュウさんだった。僕ら二人にはまったく場が不釣合いのバンコクの高級タイ料理レストラン、二階の小上がり席に案内されて、僕は酷く緊張していた。リュウさんは率先して自ら手を差し出すと、Tさんに握手を求めながら、視線を真っ直ぐ合わせるように彼のほうへ向けて歩み寄り、自己紹介した。僕はその様子を見守ってから、続いてペコペコ頭を下げながら握手し「××です。よろしくお願いします」と出来る限り丁重に挨拶した。

「まあ、まあ、どうぞ…」と促されて、僕は肩に背負っていたリュックをようやく下ろして、Tさんの真向かいの小上がり席に、リュウさんと並んで腰を下ろした。ようやく一息ついて、僅かばかり落ち着きを取り戻したところで、僕は改めて周囲を見回してみた。客は他に誰もいないようで、その場は我々三人だけの独占状態(プライベート空間)になっていた。ふと目を向けると、僕らのすぐ傍に待機していたタイの伝統衣装に身を包んだ若いタイ女性スタッフが、僕らとTさんを訝しげに見比べるようにして、やり取りを興味津々に眺めている様子だった。僕からの視線を感じたのか、すぐに彼女がこちらを見て僕と目があった。彼女は小首を傾げて誤魔化すように微笑んだ。

「メールにも書いていたからご存知でしょうが、私は、横浜で貿易業を営んでいる△△と言います。こちらが名刺になりますが…。ま、とりあえず飲み物でも頼んでください。何がいいですか?私はもう先にビールを少し頂いてますから。料理はコースを予約してありますので、あとはメニューを見て食べたい物があったら、何でも追加で注文してもらって構いませんから」

やり手の商売人といった大人の雰囲気を漂わせるTさんは、まさにビジネス会談とでもいうようにテキパキした態度と物言いで場を仕切ると、名刺を二枚、僕らに差し出してきた。「すみません、今、ちょうど名刺を切らしているもので。ついこの間、新しい名刺を発注したところで、あいにくまだ出来上がってないんですよ…」すぐにリュウさんが謝罪の言葉を口にしながら、名刺がない理由を彼に告げた。「まあ、別に大丈夫ですよ。連絡先はメールアドレスを交換しているので」とTさんは大人の対応をした。リュウさんの言葉は嘘だった。僕はリュウさんが名刺を作った姿など一度も見たことがなかった。

僕らはTさんが飲んでいたドリンクと同じ黒ビールのギネスを注文した。仕事柄ヨーロッパによく行くというTさんは、黒ビールが大好物らしく、あればどこでも頼んでしまうんですと、少しはにかみながら僕らに話した。見た感じ、歳は40代半ば~50代にかけてといったところか。細身な体躯のTさんはシンプルなポロシャツにチノパンといった清潔感が漂う服装で、見るからに人が良さそうな爽やかなオーラを身にまとっていた。そして、分厚いメガネの奥にある細い目尻を終始緩ませながら、優しい対応で、僕らとの会談を主導するように進めていった。いつも強引なリュウさんが相手のペースに少し飲まれているように感じたのは、この時が初めてのことだった。

酒や料理が運ばれてきて、飲み食いしながらの会談がようやく本格的なものになると、Tさんは今回タイに来た経緯を説明するように、改めて詳しい自己紹介を語り始めた。

「実は、君たちから届いた問い合わせメールは、私が趣味で運営しているブルース・リーマニア向けのショップ宛だったんですよ。恥ずかしながら、この年になっても、まだブルース・リーが大好きなものでね。趣味が高じて始めた店なんです。だから、私もお客さんと同じ熱狂的なファンというかマニアの一人なんですけどね。まあ、そちらは副業的にネットショップで販売しているだけなんですが、本業は貿易業なんですよ。今はヨーロッパとか中国が多いですけどね。タイには昔よく仕入れで来てたんですが、もう10年以上来てなかったんですよ。それで本当に偶然なんですが、最近なぜか久しぶりにタイに行ってみようかなと、ふと考えていたところなんですよ。そんな時に丁度いいタイミングで君たちから問い合わせがあったので、何か運命というか縁みたいなものを感じましてね。それでタイ行きを決断したんですよ…」

「へー、そうだったんですかー。それは我々としては嬉しい限りです!!」

リュウさんと僕は顔を見合わせてニヤリ顔をほころばせた。その流れでリュウさんが「サンプル…」と小声で合図を送ってきたので、僕は持参したお手製のブルース・リーTシャツをリュックから取り出した。リュウさんは自信満々の様子で、厳選して持ってきた10枚ほどのサンプルTシャツを彼に手渡した。Tさんはそれを受け取ると、わずかに眉をひそめるような表情をした。

「これは、君たちが自分で手作業でプリントしたものなんですか?」

「はい、そうです。シルクスクリーンは現地のTシャツ業者に頼んで作ってもらってますけど、あとは自分たちで一枚一枚、手刷りでプリントしています。あとTシャツのボディはバンコクの業者に別注して特別に作ってもらっている良質タイコットン100%のこだわった素材を使用してますから」

リュウさんは話を幾らか誇張しながら、自分たちのやり方を誇らしく主張するように答えた。

「ああ、そうなんですか。私はもっと安価なタイっぽい商品というか、カラー配色が多いものをイメージしていたんですけどね。実は今日、お昼に衣料品市場のプラトゥーナムを少し回ってきたんですよ。それでブルース・リーのTシャツを売っている店を何軒か見つけたんですけどね。映画のポスターやパンフレットをそのままプリントしたようなデザインの派手な色合いのTシャツです。タイランド(THAILAND)みたいな感じで大きく文字が書いてあったり、タイビール系とかムエタイ系とか、よく見かけるじゃないですか。あの手のタイプです。象とか虎とか狼とかリアルな動物の絵が大きくプリントされているような白黒のTシャツで、よく土産物屋なんかで売っているやつです。どんなのか分かりますかね?ああいうのを欲しいと思っているんですよ」

「はい、はい、もちろん分かりますよ。確かにあの手の土産物系Tシャツなら、ボーベーとかプラトゥーナム辺りでいっぱい売ってますね。ただ、僕たちはあの手の安っぽいどこにでもあるような商品じゃなくて、素材にこだわったシンプルなモノが好きで売っていきたいと考えてるので、こういうスタイルで製作してるんですけどね…」

「ああ、そうなんですか。それで君たちはTシャツ製作だけをやっているんですか?その他にも何か商品は扱っていないんですか?ホームページを拝見したところ、パタヤの便利屋さんという感じの事業内容みたいですけど、例えば、私がタイで何か欲しい商品を見つけた場合、君たちに現地での買いつけとか発送をお願いすることは出来ませんかね?」

「はい、勿論そういった依頼も引き受けますので、何でもおっしゃってください」

「実はですね、うちの会社は、全国の駅構内にあるキヨスクとか、地方のお土産物屋、あとは地元の中華街あたりの商店街とか、取引している卸し先は全国各地に沢山あるんですよ。だから、そういうお土産物屋に置いてあるような俗っぽい商品が、まさに仕入れたい商品なんですよね。私も久しぶりにタイを訪れて、ここ数日、幾つか市場を回ってみたんですが、いろいろと欲しい商品も見つかりましてね。だから、もし君たちが良ければ、私の仕事を手伝ってもらって、現地での買いつけ代行をお願いしたいと思っているんですが、どうでしょう?」

「はい、もちろん、やらせて頂きますので、何か欲しいタイ製品があったら、サンプル商品の写真を撮ってメールまでご連絡ください。メール担当の××が随時対応してますから。それで大丈夫だよね、ヒロ君?」

「はい、商品画像をメールに送って頂ければありがたいです。あと出来るなら、市場とか購入先の場所、店名、連絡先なども教えて欲しいので、店で名刺をもらえるなら、それも写真に撮って画像で添付して頂けると嬉しいですかね…」

「了解しました。それじゃあ、代行してもらう際の手数料はどうしましょうか?だいたい相場は取引額の10%前後なんですがね。あとは仕入れ資金を送金しないといけないので、タイの銀行口座を教えて頂けますか?」

「代行手数料に関しては、また改めてメールでお知らせします。あとタイの銀行口座はまだ開設してないんですよね。すみません。日本の銀行口座ならありますので、そちらに入金してもらって、随時その時の為替レートで計算して精算しますので、それでどうでしょうか?」

「分かりました。日本円で振り込めるんだったら、私もそちらの方が都合がいいですし。じゃあ、振込口座と手数料ほか詳細が決まったら、メールで送ってください」

ものの見事に話がいい方向へと急展開して進んでいき、僕らはどうやら大きな仕事を手にできそうな流れになった。僕は嬉しさをぐっと噛み締めて今にも飛び上がらんばかりの気分になったけれども、その仕事がいったいどういうものになるのか、想像できる範疇を超えすぎて全くイメージできずに、不安な思いも同時に駆け巡った。ただ、横浜の貿易業者、全国各地のキヨスク(土産物屋)といった大規模(壮大)な言葉だけに心を踊らされ鷲づかみされていた。

Tさんの会社は横浜の中華街近くにあり、父親の代から数十年と長年続いている会社だという。戦後まもなくして横浜で貿易業を立ち上げたTさんの父親は、高度経済成長期の恩恵にもあずかり、その昔は、高級木材や骨董品(アンティーク)、動物の置物(剥製)、象牙の商品、高級タイシルクなど、実に多種多様なタイ製品の数々を大規模に日本へ輸入して販売し、一代で財を成したようだ。そして、その会社を引き継いだTさんが現在2代目社長ということになるらしいが、従業員はほとんど家族や親戚たちばかりで十数名ほど、特に重役たちは父親の代からいる古株さんだから頭が上がらないという話だった。

Tさんの話に耳を傾けながら、僕の中で大きく印象に残ったイメージは、横浜の貿易業者、事業展開は全国規模の大きめ中小企業、そして、少人数精鋭の歴史ある老舗企業といったものだった。だから、なんだか僕ら個人と一企業が対等に取引しているようで、僕は酔いも手伝い晴れやかな気分だった。Tさんとの商談、いや酒の席は、そんな感じで穏やかに流れていった。

実は酒好きの飲兵衛さんなのか、Tさんは黒ビールを数杯急ピッチで飲んだ後、日本から持参したという焼酎と日本酒を荷物から取り出し、僕らにも勧めるように交互に飲み始めると、一時間が過ぎた頃には、すっかりご機嫌に酔っている様子だった。もちろん酒に弱い僕も、そのペースに思いきり付き合ってしまい、すでにいい加減に酔っ払っていた。Tさんは自分の会社の話や昔よく訪れていた時代のタイの話を語り、僕らは自分たちが今やっていることや、タイに移住した経緯、現地での生活、身の上話など、包み隠さず正直に自分たちのことを其々語った。

僕らの身なりや物腰、それに年下の年齢などがそうさせたのだろうが、Tさんは酔いが進むうちに、僕らへの丁寧口調を止めてタメ語口調に変わっていった。そして、会談を始めてから、すっかり3時間近くが過ぎた頃、見るからにいい塩梅の酔いどれ状態になると、僕らに告白するようにポツポツと語り始めた。

「実はね、さっきも話したけど、ふとタイのことを思い出して、10年以上ぶりに行ってみようかなと考えていた時に、まさにジャストタイミングで君たちからのメールが来たという話。そこに運命を感じたというかね。まあ、こう見えても、私はこれまで数十年と世界各国をいろいろと見て回ってきたからさ、その経験から、自分の直感とか、その場その時の流れ、縁といったものを本気で信じている口でね。結構、自信を持ってるんだよ。だから、今回は、その自分の直感に賭けてみようと思ったんだけどね…。でも、実を言うとね、今回のタイ行きは、社員たちのほぼ全員が反対している中を、社長の権限で無理やり押し切ってやってきた海外出張なんだよね。だから、必ず何か良い商材を見つけて帰国しないとヤバイ状況なんだけどね。特に年寄りの重役たちがうるさいからさ。それで、ここまで話したから、もう本当の話を白状してしまうけど、実は、私がタイで君たちに会うことに対して、社員の皆が大反対したんだよね…」

「えっ、そうだったんですか……!?」

「そう、そう、、いや、だってさー、問い合わせがあった君たちの会社のホームページ、あのパタヤの便利屋ってやつ。Tシャツ製作とか豊胸クリーム販売とか、いろいろ記載されてあるけど、現地の観光ガイドとか夜遊び同行とか、タイ人女性との国際恋愛とか、何だか如何わしい感じのこともやってるでしょ。それに例の探偵調査ね、駐在員の浮気調査サービスみたいな、、それらサイトのページが全て1ページ1ページずつ、うちの会社の会議室の巨大スクリーンにデカデカと映し出されてね。まったく想像してみてよ。家族や親族ばかりの高齢社員たちがずらーと並んで厳かに見守っている暗がりの中、探偵調査サービスだからね。それにあの文章、、それで年寄りの重役連中から、いったい何をしている業者なのか、どんな日本人なのか正体不明で怪しすぎる!って一斉に言われてね。実は非難轟々だったんだよ…」

「えぇっー、マジっすかー……!?プッ、アハッ、ギャハハハハーーー!!!」

酔いも手伝い、僕らはその話を聞いて、顔を見合わせ爆笑するばかりだった。それに釣られてTさんも腹を抱えて笑っていた。

「でも、皆から反対されても、私は君たちに会ってみようと思ったんだよね。それも直感だけど、とにかく縁を信じようと思って、今回タイにやって来たんだ。だから、正直、君たちがどういう人間なのかは今日実際に会ってみて大体分かったからさ。君たちも悪い人間じゃなさそうだし、上昇志向がありそうだから、まあ、様子を見ながら、いろいろ手伝ってもらおうかと考えているんだ。うまくやってくれたら、ブルース・リーTシャツの他にもお願いしたいことが沢山あるからさ…」

「はい、了解しました!ありがとうございます!」

そうして、Tさんとの初対面、出会いの夜は、店員にラストオーダーを告げられる頃まで続き、深く実りのある会談となった。その後、僕らは場所を移動し、近くにあったバービア店で酒盛りを続けて、深夜0時頃まで、Tさんが満足するまで付き合った。

別れ際にTさんは僕らに再度、握手してきて、「必ず連絡しますから、一緒に頑張っていきましょうね!」と手に力を込めて告げた。「はい、よろしくお願いします!」と答えて、僕らはTさんを見送った。その背中が十数メートル先まで離れたところで、「よっしゃあー!!」僕とリュウさんは互いの拳と拳を合わせてガッツポーズし、固い握手を交わした…。

ブルース・リーのサンプルTシャツだけを意気揚々と持参してきたものの、名刺もない、タイの銀行口座もない、商談にはあるまじき準備不足を露呈してしまい、僕らの第一印象は最悪のものだったのに違いない。それに他にも如何わしいサービスをいろいろとやっている僕らの存在は、日本にいる社員の皆さんたちからすれば、怪しいだけで絶対に避けるべき対象であった。僕らが送ったおよそ10通のダイレクトメールの中で唯一返って来たのがTさんからの返信メールだった。

僕らはやはり一般的な日本人からすれば、いや特にビジネス(商売)を依頼しようと考える企業(業者)からすれば、どう見ても怪しい存在にしか見えないというのが現実のようだった。それでも縁を信じて、Tさんは僕らに会い、信じ、賭けてみようと言ってくれたのだ。僕は、絶対このチャンスを逃さずに、Tさんの期待に応えて、必ず成り上がってやる!と深く自分の心に刻みこんだ。

Tさんが僕らに口頭で伝え、残した宿題は三つだった。先ずはブルース・リーTシャツなど関連グッズを含めてくまなく探すこと。そして、ミニチュア商品、昆虫キーホルダーというものだった。僕らはそのままバンコクに数日滞在して、いろいろな市場に足を運んで、さっそく商品探索を開始した。そして、衣料品市場のプラトゥーナムや、週末開かれる大型市場のチャトゥチャック(ウィークエンドマーケット)辺りで、それらしき目当ての商品を幾つか探し当てることに成功した。

リュウさんは、その中で当たりをつけた店で、サンプル用に一つだけ商品を購入すると、あとは得意のタイ語ギャグ会話&ナニワ交渉術で、タイ人店主の懐に忍び込み、ジャパンのビッグカンパニーからの依頼だという大そう大げさな話しぶりで、100個~1000個単位の卸し価格(WholeSale)を尋ねて、値下げ交渉し、首尾よく話をまとめ上げた。

それから、僕らはパタヤに帰還すると、市場で撮影させてもらった店舗(店主)の写真や、サンプル画像などをTさんにメールで送った。そして、リュウさんは僕らにとって初めてとなる名刺をついに発注したのだった。

そんなわけで、タイ便利屋コムに「タイ製品の輸出入代行サービス」という新しいカテゴリーが加わる運びとあいなった。また、Tさんからの指摘を受けて、改めて思い直し、夜遊びガイドや、送金代行、探偵調査(改め国際恋愛相談コーナー)など、如何わしいナイトライフ関連のサービスは全て、趣味で始めた姉妹サイト「パタヤの匠」へと移動させた。

そうして新たに始めたサービス、輸出入代行業は、その後の僕らのタイビジネスを大きく変えていくことになるのだった。

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