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男たちの南国物語 VO.54 探偵はバービアにいる!?―パタヤ商売編

投稿日:2018年11月30日 更新日:

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それは某大手商社に勤めるエリートサラリーマンとも言うべき人物からの探偵調査の依頼だった。

送られてきたメールには、その依頼主の彼女だという女性の名前(ティックというタイのニックネーム)、そして、二人が出会った場所だというパタヤのソイ8にあるバービアの名前が記載されており、デカデカとした女性の拡大写真が数枚ファイルで送付されてきた。依頼主の男性Mさんは30代半ばぐらいの年齢で、ティックという名前の彼女は20歳。写真で見た彼女の顔立ちはおっとりした色白美人という印象だった。

Mさんは仕事柄、海外出張でアジア各国を行き来することが多いらしく、バンコク出張の折に、仕事仲間と数日パタヤを訪れ、彼女に出会ったようだ。それがおよそ2年ほど前の出来事で、それから彼は仕事でタイを訪れるチャンスがあれば、彼女に会いにパタヤへと足を運ぶようになった。そして、一夜限りの関係から始まった出会いも、すっかり一目惚れしてしまったMさんの猛プッシュにより、やがて二人は恋仲の関係になったようだ。

なんでも、Mさんはこの1年の間にすでに4、5回ほどタイを訪れているという。それに彼女とは近い将来、結婚する約束も交わしているという。彼女の田舎にはまだ行ったことがないが、彼女の両親とは国際電話で何度か会話したことがあり、二人の結婚についても既に了解を得ているようだ。そういった事情もあり、Mさんは彼女にバーでの仕事を辞めさせ、実家がある田舎のノンカイに帰らせている。今では毎月5万バーツ程度の送金を繰り返しているとのことである。

彼がタイを訪れる際は、彼女が田舎から出てきてバンコクで会うことが多いようだ。だから、自分がいない間は当然、彼女は田舎にいて、夜の仕事を続けていることなどあり得ないはずなのだが、国際電話をかけた際に、たまに電話口の向こうから軽快なテンポのサウンドというか、バーで流れるミュージックのような騒音が聞こえることがあるのだという。猜疑心に駆られて、彼女にそれを問いただしてみても、テレビの音だとか、友達と近所のカラオケに来ているだとか、その都度色々な理由をつけて誤魔化されているような、不審な出来事が度々あるらしい。

愛する彼女を疑ってはいけないとは思うものの、電話に出ない日などあると特に、まさか、ひょっとしたら、と不安を覚えてしまう自分がいる。結婚を約束して、毎月多額の送金をしている以上、一応ながら身辺調査しておきたい。ついては彼女が働いていた店を確認して調べて欲しいという内容の依頼であった。

二人が出会った馴れ初めから、現在、彼女に感じている違和感まで、切々と語るように送られてきた長文のメールを読んで、リュウさんは率直な感想を口にした。

「いやー、これはどう考えても怪しいところ満載だなぁ。国際電話のくだりなんて、はっきり言ってビンゴでしょ。彼にウソついて、まだ仕事を続けてるってことだよ。なんで彼女の言うことをそのまま信じちゃうのかなぁ。それに、この写真の女。なんか見たことあるような顔じゃない?」

「うーん、どうなんですかねぇ。でも、そう言われれば、確かにどこかで見たような顔ですよねぇ。まあ、タイ人も同じような顔した人多いですからねぇ」

「俺の予想だと、これは水商売の女にいいようにやられちゃってる男の典型的なパターンだな。それにさぁ、毎月5万バーツも仕送りしてるなんて、あげすぎだよ。だって、タイの田舎で生活してるんだったら、そんなに必要ないから」

「まあ、そうですよねぇ。でも、本当に騙されてるんですかねぇ」

「間違いないよ。バービアで働いている女だからね。何かしら裏はあると思うよ。それに、こんな色白のいい女、タイの男たちがほっとくわけないじゃない。どうせタイ人の彼氏か旦那がいて、仕送りしてもらった金で派手に遊びまくってるのがオチだと思うよ。それでバレそうになったら、ハイ、サヨナラって感じじゃないかなー」

「そうですねぇ。まあ、普通に考えれば、このレベルの女性だと、今現在、彼氏がいないとしても、離婚歴があって子供がいてっていうことも考えられますよねぇ。そうじゃないと、夜の仕事なんてしませんからねぇ」

「ま、今もパタヤで仕事してるかどうかは分かんないけど、とりあえず、メールに書かれている店に行って情報を探ってみるかー」

僕らは、送付されてきた彼女の写真をじっくり見て顔を覚えると、その日の晩、さっそく記載されていたソイ8の店に足を運んでみた。

ピークタイムを迎える夜の9時頃を狙い、もちろん普段通りに客の顔をして入店する。大抵のバービアというものは店の規模もたいした大きさではないし、働いている女性の数は10人前後、多くても20人ぐらいだから、全てを確認するのは容易なことだった。それに決まって若い女性は客引きするように店の軒先近くにいるのが普通だった。僕らは、軒先のテーブル席に陣取り、ドリンクを注文すると、そこにいる女性たちを物色するようにバー内をぐるり見渡した。

意外にも、写真の女性はすぐに見つかった。いや、これがパタヤの現実というものなのだろう。彼女はいたって普通に仕事をしていたのだった。

色白の美人ということもあって、彼女の存在は、店内の女性たちの中でも一際目立っていた。彼女は僕らの隣のテーブル席に座る欧米人客についていた。おっとりした清楚な顔立ちには似合わず、小悪魔のように男にしなだれかかり、数人の女性たちと一緒にキャピキャピ騒いで酒を煽っていた。その欧米人は気前のいい客のようであった。そして、見るからに若くて甘いマスクをしたハリウッド映画に出てきそうな金髪の男前であった。

いとも簡単にあっけなく彼女の存在を確認できたことで、僕らは拍子抜けしてしまった。それは調査を依頼してきたMさんにとっては、残酷な現実であった。僕は、純粋に彼女を信じ送金を繰り返しているというMさんに同情しつつ、とんでもない女だなと、隣ではしゃぐ女を許せない気分になった。

とはいえ、僕らの立場は一応、探偵であるからして、その実態を冷静な目線で逐一観察し、調査することが任務である。僕らは、パーティーみたいにワイワイ盛り上がっている隣の一団の様子を窺いながら、彼女に近づくための作戦を考えた。そして、とりあえず、僕が彼女のことを気に入ったことにするという至極簡単な作戦を立てた。

チャンスはすぐに訪れた。欧米人の男がトイレに立った隙を見て、リュウさんが彼女に声をかけたのだ。僕はタイ語を話せないピュアな旅行者ふうを装った。彼女は、すでに良い加減に酔っ払っているようだった。僕が恥ずかしそうな面持ちで、彼女への好意をアピールすると、満更でもないような笑顔を返してきた。しかし、彼女の表情には常日頃からモテている、いい女の自信のような態度があからさまに入り混じっていた。「あら、またワタシのことを好きになった男がいるみたいだわ。次から次にモテてホントに困っちゃうわ」といった感じの雰囲気がありありだった。

そして、彼女はそっけない態度で、「ソーリー、今日はファラン(欧米人)の彼からすでにペイバー(連れ出し)されているのよ」とリュウさんに告げて、こちらの申し出を断ってきた。それから、品定めでもするように僕の方に視線を移すと、「彼は今晩が滞在最終日で帰国する予定だから、また明日にでもワタシに会いに来て」と言い、口元を緩ませて僕に微笑を投げかけてきた。僕はその微笑に彼女の本性を垣間見たようで、幾らかぞっとしながら、無理やり繕った笑顔を返した。欧米人男がトイレから帰還したところで、彼女との接触は終わった。

隣の席に座る僕らからの視線に居心地が悪くなったのか、あるいは滞在最終日だという男の都合によるものなのか、それから程なくして、彼女は男に連れられ、店を出て行った。その際、彼女は男に感づかれないタイミングで、小悪魔のような微笑を僕にこっそり投げかけてきた。僕らは、すっかりぬるくなってしまった1本のシンハービールを飲み干して、その店を後にした。

住まいのタウンハウスに戻り、残酷なる調査結果のメールを作成する。調査を依頼してきたMさんは、彼女に毎月多額の送金をしている上客だとも言えそうなことから、これは金になると踏んだのか、リュウさんは情報を小出しにしようと提案してきた。

とりあえず僕らは、彼女らしき人物は言われたバービアで今現在も働いてるようだ、という旨の簡単な報告メールを送信した。すると、すぐに信じられない…といった内容のメールが返ってきた。僕らは、調査の継続を希望でしたら、明日にでもまた彼女が働いているバービアに調査に行くつもりだと返答して、諸々の必要経費を含めた調査費用を彼に請求した。すぐに調査の継続希望と、調査費用として明日にも数万円を振込みます、という内容のメールが返ってきた。

翌日、入金を確認した僕らは、決定的な証拠写真を撮るために安価なデジカメを購入した。それを持参して、その夜、再び彼女のいるバービアを訪れる。しかし、常客が帰ったばかりのせいなのか、彼女はその日、店に姿を見せることはなかった。僕が彼女のことを気に入って、会いに来ている設定になっているので、その旨をリュウさんが店にいた女性に話して、彼女のことを詮索する。すると彼女の友達だという女性が、彼女に電話をかけてくれた。昨晩、飲みすぎたので今日は二日酔いで仕事を休むらしい、という答えが返ってきた。僕らはその詳細を逐一、調査結果と称してMさんに報告した。

調査開始から三日目の夜。他の男に取られてはなるまいと、早い時間から店に足を運んだ我々だったが、その日も彼女は中々姿を現さなかった。売れっ子だから出勤時間に縛りがないのだろうか、はたまたフリーで契約しているのだろうか。ようやく彼女が出勤したのは夜9時を回った頃だった。僕は、初めて会った晩から毎日彼女に会いに店を訪れている、彼女にゾッコンな旅行者ふうを装い、リュウさんは僕のお供をする通訳ガイドの役を演じた。そして、ついに彼女は僕らの座る席にやってきて、じっくり話をすることが出来た。

リュウさんは、タイ事情に通じている長期滞在者といった雰囲気で、いつものように砕けた感じのざっくばらんな物言いで、彼女に話しかける。「この前見た欧米人の男は常客なんだろう?」と核心に迫る直球の質問を投げかけると、彼女はその質問に幾らか驚いた表情を見せながらも、リュウさんの場慣れした態度と流暢なタイ語に、嘘をついても仕方ないと感じたのか、彼女の真実を語り始めた。

彼女が話すところによると、男はカスタマー(常客)ではなく、アメリカ人のマイラブ(恋人)なのだという。男は米軍人で、知り合ってからもう1年以上が経つらしい。見るからに若い風貌であったが、聞くと年齢は27歳で僕と同じぐらい。しかも長身でサラサラ金髪のハンサムガイでもあった。

僕は、焼きもちを焼いたふりをして、「日本人では駄目なのかい?」と依頼主のMさんの気持ちを代弁するように彼女に問いかけてみた。すると彼女は、「ワタシはファラン(白人)が好みなの。ソーリー」と答え、アメリカ人の彼とはゆくゆく結婚するつもりなのだと本心を口にした。それは告白というよりは、二人の甘い関係を僕らにのろけるような口ぶりだった。

当然、それは僕ではなく、Mさんにとって、情け容赦ない彼女の本心であった。僕は彼に深い同情の念を抱くと同時に、結婚話を餌にして騙すように毎月送金させている、目の前の女を許せない気持ちで一杯になった。

20歳そこそこの年齢の彼女からすれば、若い金髪のイケメン白人に気持ちが向くのは当然のことなのかもしれない。しかし、同胞である日本人Mさんの恋心を弄び、結婚をちらつかせて金を引っ張っている一種あくどいやり口に、僕はいたいけさの欠片も感じることは出来なかった。それは天性の手練手管ともいうべきもので、彼女は生まれつきの魔性の女のようであった。

きっとリュウさんも彼女に対して同様の悪感情を抱いたに違いない。そして、リュウさんは、Mさんの存在を確かめるように、「今までファラン(白人)以外で、例えば日本人の客に連れ出された経験はないの?だって、君って日本人にも好かれそうな色白の美人だしさー」と彼女を引っ掛けるような質問を投げかけた。

すると、その言葉に気を良くしたのか、彼女は「実はワタシのことを気に入って、年に何回か会いに来てくれる日本人のカスタマー(客)が一人いるの」という言葉をとうとう口にした。それはどう考えてもMさんのことらしかった。シメシメと言わんばかりにリュウさんが話を繋げる。

「へぇー、そうなんだ。でも、年に何度もわざわざタイまで君に会いに来るってことはかなり本気だよね。その人とは頻繁に連絡を取り合ってるの?それに彼からも結婚してとか、言われちゃったりするんじゃない?」

「そうそう、よく日本から国際電話をかけてきて、メールもしょっちゅうよ。それで結婚してくれって何度も言われてるんだけど、彼はワタシのタイプじゃないから。ワタシは来年にもアメリカ人の彼と結婚して、アメリカに行く約束をしてるのよ」

「えー、それは可愛そうだなぁ。もちろん、彼はアメリカ人の彼氏の存在なんて知らないんでしょ?」

「そうね、まあ、しょうがないわ。でも、今年のハイシーズン(年末年始)は同時期に二人がタイに来るって話をしているから困ってるのよ。アメリカ人の彼氏にも日本人のことは内緒だからね。だから日本人の彼とは、その前にバイバイしようと思ってるの」

「ははは、そうなんだー。二人がバッティングしちゃったら最悪だもんね。でも、日本人の彼は気の毒だけど、サヨナラするのも大変じゃない?」

「マイペンライ(大丈夫)、仕事を辞めて田舎に帰るとでも言うから」

結局、彼女から送金の事実を引き出すことは出来なかったが、かなり彼女の真実なるものを聞き出すことに成功した。彼女は仕事を辞めることにして、そのうちMさんに別れを告げると言ったが、Mさんの話では彼女は田舎に帰っていることになっているのではなかったか。そのあたりの辻褄が合わないが、Mさんは彼女の田舎に行ったことがないとメールに書いていたので、彼女は頃合を見て一方的にトンズラを決め込むつもりなのだろう。

僕は、話の途中から、そういった状況なら仕方がないとばかりに会話に同調し、恋に破れた男を演じた。もちろん彼女を連れ出すこともなく、我々はその店を後にした。

非情ともいえる残酷な調査結果を報告するのは困難な作業だった。メールのやり取りは僕の役目だった。写真は、リュウさんが旅行者の僕を撮影するふりをして、何枚か彼女の姿を収めていたので証拠はばっちりだった。あとは真実をどこまでMさんに伝えるかだった。それこそ現実に打ちのめされて、傷心自殺でもされたら大変なことである。

結局、僕はその晩、あれこれ熟考しては、何度もメールを書き直し、冷静な結果報告というよりは、Mさんの気持ちに寄り添いながら、タイのバーガールたちのリアルな現実をくどくど説明するように、徹夜して長文のメールを書き上げた。

毎晩いてもたってもいられなかったのだろう。明け方にも関わらず、すぐにMさんからの返信があった。決定的ともいえる数枚の彼女の写真に、彼はひどく落胆している様子だった。返信されてきたメールの文章には、彼からの悲痛ともいえる心の叫びがそこかしこに垣間見えた。

悲惨な結末となってしまったが、これも失恋の一つである。裏切られた気持ちだけでなく、金銭的に失った額も多いだろうが、このまま何も知らずに送金を続けていたら、更なる出費がかさむことになったわけである。そう考えれば、幾らかでも損害を抑えることができたのではないか。

どう励ませばいいものやら、かける言葉は見つからないけれども、月並みな言葉で言えば、いつか時間が全てを忘れさせてくれるのではないか。いや、決して忘れることなどできないだろうが、甘酸っぱい国際恋愛の思い出として心の片隅に仕舞える日が来るのではないか。

僕は、自分が若い時分に恋したタイ人女性との恋愛話などを例にとり、彼をなだめるようにメールを返信した。

もし、彼が彼女のことを許せないと逆上して、彼女に連絡をとり、僕らの存在を伝えたり、証拠写真を突きつけたりでもしたら、それはそれでこちらが困ることになる。僕らが探偵であったという事実を彼女に知られてしまったら、彼女から恨まれ、復讐されかねないということも考えられるからだった。我々はタイに住んでいる以上、タイ人とのトラブルだけは絶対に避けなければならないのである。

それから僕は、Mさんの気持ちが落ち着くまで、彼からのメールが途絶えるまで、何度もアフターフォローのメールを返信し続けた。最終的に、Mさんは自分からはもう二度と彼女に連絡を取らない、フェードアウトするということで話は落ち着いた。

僕らは、情報を得るために女性たちにドリンクを奢ったりして店でかかった諸々の費用だの、タイ人スタッフ(協力者)を雇っただの、交通費だの、報告費だのと、あれこれ理由をつけて必要経費を請求して、結局トータルで10万円以上の調査費用を得ることに成功した。調査を始めてから、メールのやり取りが終了するまで、およそ一週間の時が経過していた。

リュウさんは、何度となく真摯にメールの返信を繰り返した僕に対し、「よくやった!あれだったら恋愛カウンセラーなんか向いてるんじゃない?」とお褒めの言葉をくれたが、僕は手にした報酬の喜び以上に、心身ともにぐったりした疲弊感しか残らなかった。

そして、冗談半分で始めた探偵調査というものが、人の人生を左右するとんでもない仕事だということを、ただ痛切に感じるだけだった。

 

タイ移住生活14年間の放浪物語―フィクション50%+ノンフィクション50%=(ハーフ&ハーフ)ストーリー

 

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